とある街の片隅で彼女は机の前にかじりついて小説を書いていた 昔は売れっ子の小説家

     彼女がまだ十五歳の頃 書きたいように書いたものが

          偶然に賞をとった たちまち売れっ子の小説家

 

それは大勢の人の目に触れて映画にもなったほど「天才だ彼女は」と称賛の声に包まれていた

     最新作はいつになるだろう 待ちわびる期待の声が 

          彼女はとても嬉しくて 急いで新しいものを書いた

 

  けれど最初の小説を越えることはできなかった

   結局最初だけだったよななんて世間の声は冷たい

         いったい何を書けば良かったの 分からないまま 彼女は泣きながら笑った

 

忘れていたろう 何故今もまだ ここにしがみついているのかさえ

      いっそ笑い飛ばしてしまえたなら

書きたいものは どこへ行ったろう 好きだから始めたはずだったろう

          こんなに苦しいことばかりなのに

  今も書き続けて 今も書き続けているのは 何故だろう

 

とある街の片隅で彼は机の前にかじりついて小説を書いていた

      いまだになんの賞もとれやしない

彼はもう三十の手前で まわりの人も呆れ顔で

          いつまでもそんなんじゃ駄目だぜちゃんと現実を見ろよ

 

それでも彼はまだ諦めない 今度こそは 今度こそはと

             渾身の作品だ これならきっと大丈夫だよな

自分にそう言い聞かせて パソコンサイトに貼り付けて応募した 

          神様、一度くらいは奇跡をくれよ

 

けれど結局今回もなんの賞も取れなかった

才能ないんだよなんて まわりの人はきっと正しい

馬鹿な夢を見たものだな ため息ひとつ すべてがもうどうでもよくなった

 

忘れていたろう 何故今もまだ ここにしがみついているのかさえ

    いっそ笑い飛ばしてしまえたなら

書きたいものは どこへ行ったろう 好きだから始めたはずだったろう

こんなに苦しいことばかりなのに

 

 

 

そもそも僕が小説を書きたいと思い立ったのは

まだ十五歳の頃の話 すべてに塞ぎこんでいた頃

偶然手にした小説 同い年の女の子が書いた

救われない悲劇のストーリー それでも立ち上がる主人公に

少なからず救われたよ 少し歩きだそうと思えたよ

そうだ僕はそんな物語を書きたかったんだ

どこか遠くで泣いているあなたに届きますように 思い出したよ

 

 

忘れていたろう 何故今もまだ ここにしがみついているのかさえ

いっそ笑い飛ばしてしまえたなら

書きたいものは ここにあるだろう 届けたい言葉があるのだから

こんなに苦しいことばかりだけど

  今も書き続けて 今も書き続けているのは 分かったろう

 

とある街の片隅で彼は机の前にかじりついて

小説を書いていた 何もまだ報われてはいないけれど